おしゃれな欧風ワイン蔵 取材報告  (by えつこ)

新潟県巻町  カーブドッチ ワイナリ

第 5 話

ここの砂丘は深いところまでずっと砂が続いていて、たとえ雨が降っても、ちょっと手ですくってやると、その下は乾いているのだそうです。ですから必要に応じて水を供給してやらなければなりません。しかしスプリンクラーで水まきをしてもムラが出るおそれがあり、また収穫期が近くなると葡萄自体に水がかかると破裂して、実が傷んでしまうので、垣根の最も下の段に給水ホースを這わせ、1本1本の木に必要な水分をドリッフで供給するのだそうです。
   
写真でのご紹介が遅くなりましたが、この方が中沢さんです。さらに説明は続きます。
ここはまるっきり砂しかありませんが、それでも雑草は生えてきます。最低限の農薬しか使わないので草刈りも大切な仕事です。また、刈り取った草もきちんと始末しないと小動物のねぐらになって、葡萄を食い荒らしてしまいます。
今までで何よりも辛かった思い出としては、最初の年、不慣れな中で寝食を忘れるくらいに精一杯に造った葡萄がいよいよ明日収穫ということで、翌朝期待に胸をふくらませる思いで畑にやってきたら、1粒の葡萄もなくなってしまっていたことでした。ムクドリの大群に食べ尽くされ、本当に1粒も残っていなかったのだそうです。それが何よりも悔しくて忘れられないとのことですね。それに懲りてその後は葡萄が熟してくると、防鳥ネットをかけるようにしたそうです。そのネットのかけ方もトラクターを使う作業上の制約など色々試行錯誤し、垣根の前面に杭を打ち、垣根から少し離してネットを垂らすようにしたそうです。するとカラスは利口ですので危険なネットには近づかず高みの見物をしていますが、それに比べてムクドリはネットに引っかかってしまうか、さもなければ網の下から潜り込んで下の葡萄を突っつくかネットの前でホバリング(空中静止)しながら網の外から突っつくしかなくて被害は最小限になったそうです。
ここで主人が質問です。「そういえば、ここの葡萄の収穫は8月の中旬から9月の上旬で終わってしまいますね。他に比べて約1カ月早いようですがそれは何故ですか?」

中沢さんがすぐに答えてくれました。この土地の特異環境のせいで他に比べて葡萄の生育が早いようです。何と言ってもその最大の理由は夏の昼間の日照が多く、温度が高いとのこと。その割に夕方からスーと気温が下がり夜は過ごしやすいほど温度が下がる。これが葡萄にとって理想的な環境のようですね。また、砂も土に比べて昼は焼けつき、夜はすぐ冷える。ですからここからちょっと離れた場所に行くと、同じ葡萄でも収穫の時期が違うのです。そんな理由が考えられると思います。・・・なるほど。
そして説明は苗の剪定の話に移ります。毎年冬の最も寒い時期に苗の剪定を行います。この作業が最も大切でまた、最も辛い作業なのだそうです。厳冬期の屋外仕事。雪こそほとんど降りませんがその代わり寒さといったら天下一品。凍りつくような寒さです。その中での手仕事。1つ1つの木の個性を見極め、必要な新しい枝を2本だけ残し、後は全て切ってしまいます。そしてその2本の枝を適当な長さにして垣根に固定します。これが秋の実りを左右する大切な仕事なのです。
春になるとその2本の枝から芽が出て垣根に添って生長し、元気な葡萄を実らせてくれる。その根本となる剪定作業です。こればかりはバイトも頼めません。目の肥えた経験者しかできない作業です。寒風吹きすさぶ中での作業のため、ポケットにアルコール度数の強い蒸留酒を忍ばせ、寒さしのぎに時々グッとあおりながら作業をするそうです。
この畑はみんな自分たちで開墾した場所です。もともと松林だったところですがその松を切り倒し、根っこを引き抜き、1本1本苗を増やして来たのです。同じ砂地でも場所によって素性が違います。思ったように苗が育たないこともあり、手塩にかけるということはこういうことなんでしょうかねと気持ちを語ってくれました。
振り向けば芝生が生えそろった中庭。
その先にレストランとカフェテラス。
どうです。何となくステキでしょう。
   
    …第6話につづく…

第4話にもどる        第6話にすすむ