初めての酒蔵見学 取材報告2    【by Etuko】

栃尾市 越銘醸株式会社

第 9 話

 切り返しから12時間後、蒸し米を引き込んでから大体、丸1日が経つと今度は幼稚園児まで成長した麹を隣の麹室に移すことになります。
 この時の温度は33度から34度くらいになっています。
 それでは隣の部屋に移動します。
    
 そこにはステンレス製の自動製麹機と床(とこ)が置かれていました。
 現在では普通の麹を造るときは2日目になると自動製麹機を使うことが多いようです。ここでも大人15人くらいは楽に入れるお風呂の様な自動製麹機がありました。
 幼稚園児の麹はお米の表面で麹菌が繁殖してお米のかたまり状態になっています。そこでそのかたまりをバラバラにほぐしてから、この機械の中に入れます。
    
 この機械の構造は金属製の網が中段に敷き詰められていますが、その上にお米を広げるのです。後はカバーをして終わり。自動的に内部の温度調整を機械がしてくれます。
 ちなみに、この作業を「盛り」と呼び、この時の麹の温度は32度から33度に下がっています。
 その後10時間が経過すると麹は小学生に成長し、温度は34度から36度になり、再び、かたまりをほぐす作業をします。これを「仲仕事」呼びます。これで温度が33度から35度に下がります。
 「仲仕事」から7時間後、麹は中学生になり、温度は36度から38度になり、また、かたまりをほぐす作業をします。これを「仕舞い仕事」呼びます。これで温度が35度から37度に下がります。
 そして6〜7時間後に温度は40度から42度に達し、高校生となってその成長を止めます。その後4〜8時間にわたってその温度を保ち、大人へなるための準備をします。これで麹の完成となります。
 この出来上がった麹のかたまりを最後にバラバラにほぐしてから、隣の涼しい部屋に移します。これを「出麹」と呼び、この時点での水分量は20%。ようやく麹造りの終了となります。

 さて、自動製麹機を導入してからの麹の一般的な作り方は以上となりますが、一方、大吟醸を含む高級酒を造るときは若干違います。
 エアーで蒸し米を運ぶとどうしても表面だけの水分が3%失われてしまいます。
 それを防ぐために人海戦術で人の手で運ぶというところまではお伝えしました。
 その後は10キロずつ布に広げて放冷し、種付けをし、吟醸酒などでは15キロずつ麹台と呼ばれる、底がすのこ状になっていて畳を一回り小さくしたような大きさの木製の平たい長方形の箱に移して麹菌の繁殖を行います。
    
 この麹室の中でお米を運ぶ時には箕(み)と呼ぶ昔ながらの道具を使います。
 そして大吟醸の場合は更に小さなお盆のような麹蓋(こうじぶた)を使って麹を造ります。杜氏は麹室の壁の近くにある細長いテーブルのそばまで行って説明してくださいました。 
    
 この上で麹蓋を、そうですね、60〜70cmくらいの高さに積んで麹を育てます。
 前出の決められた時間ごとの作業の他に2〜3時間おきくらいにその麹蓋の重ねてある場所や段を組み替えて温度の影響が均一になるように世話をします。そして、麹のかたまりを手で優しくほぐし、米の一粒一粒がバラバラになるように丁寧に根気よくほぐさなければなりません。
 麹蓋は10や20ではありません。50や60にもなると大変です。それだけでも大変なのに麹菌の成長に従って最初は中央部分に盛り上げるようにお米を乗せますが、次は段々その山を低くしたり、逆にまん中をへこませた山にしたり、1本筋から3本筋を付けたりして、麹蓋の中の麹をいわゆる職人技で温度管理するのです。
 昔は全ての麹がこの作業で造りました。おちおち寝ている時間もなく、それはそれは大変なことでした。自動製麹機が導入されてからはその作業もずっと楽になったということです。
    …第10話につづく…

第8話にもどる        第10話にすすむ