初めての酒蔵見学 取材報告2 【by Etuko】
栃尾市 越銘醸株式会社
第 8 話
これは作業を手伝っているわけではありません。階段を上がるとまた、手を洗っている様子です。 前回、初めてお邪魔したときはご迷惑になるといけないと言うことで、麹室のドアを少しだけ開けて、覗かせてもらっただけでした。しかし、今回はちょうど麹が出来上がったばかりで、作業に支障はないとのことで、中に入って見せて頂きました。 でも、その前にまた、手を洗い、履き物を変えていざ潜入。 麹室の中は4つの部屋に分かれています。まず最初の部屋は小さな部屋で、いわゆる風除け室とでも言いましょうか。外気が直接部屋の中に入って温度が変わらないように緩衝部分になっているようです。 ですから外との出入りには、必ずこの部屋を一度通らなければならない仕組みになっています。 |
風除け室を入って正面の部屋が最初に蒸し米が運び込まれる麹室です。その部屋の中央には木製の大きな台がデーンと据え付けられています。 蒸し米が運び込まれてこの台の上に広げて麹菌を振りかけるのです。そのことを「種付け」と呼びますが、その時の室温は30度から35度くらいで無風の状態にします。湿度は蒸し米から蒸発する水分のせいでほぼ100%近くになります。ちょっとした低温サウナですね。 ちょうどその時の写真をお借りしましたので参考まで。 さて、麹菌は乾燥した微粉末の状態になっていますから種付けの時に風があると均一に振りかけることが出来ずムラが出来てしまいます。 種付けはお米の上で煙のように空気中に漂わせ、ゆっくり静かに麹菌を撒き、薄くまんべんなく振りかけます。その麹菌の撒き方や量によって麹の出来方が変わります。 |
最も理想的というのが突き破精(はぜ)麹や総破精(はぜ)麹と呼ばれる麹です。 これは蒸し米が「外硬内軟」に仕上がっている事が重要で、麹菌が蒸し米の表面だけでなく内部まで入り込んで強い酵素力を発揮します。ここでは淡麗な酒質を目指すために突き破精(はぜ)麹にしています。 この種付けが麹造りで最初に最も気を使う部分ですね。ちなみにこの台、正式には床(とこ)と呼ぶのですが、ここで約300キロのお米の種付けが出来るそうです。 以前に、酒造りでは、仕事をしたことで重量が変わり、その様子を把握するために常に重さを計ると書きましたが、この麹室でも行われています。何とこの麹を造る台(床)もこれ自体が秤になっているのです。ですからここで作業をする前に引き込んだ蒸し米の重量から段々麹に成長していく重量を刻々と知ることが出来るのです。 さて、実際にこの床を使うときはこの上に専用の敷き布団を敷き、清潔な布を広げてその上にお米を広げ、種付けをします。 |
その後、麹菌を振りかけられた蒸し米を全体にまんべんなく混ざり合うように人の手で蒸し米を混ぜ合わせます。これを「床もみ」と言います。その段階で温度は32から33度。 振りかけられたばかりの麹菌はまだ生育不十分で発熱が少ない状態ですから、水分の蒸発によって熱が奪われないように比較的高く盛り上げて、寝冷えをしないように掛け布団も掛けてやりしばらく休ませます。 これがそのお布団です。室の奥にきちんと畳んで置いてありました。 それから約10時間後、麹菌の繁殖につれて温度が上昇し、33度から34度くらいになります。床の上の麹の赤ちゃん達はどうしても内部の方が温度が高く水分も発散しにくくなり、外側はその反対になります。そのままにしておくと麹の赤ちゃん達の発育が均一になりません。そこで平等に発育させるためにはかき混ぜるしかありません。また、人の手でかき混ぜます。この作業を「切り返し」と呼びます。この時温度は31度から32度くらいになります。 …第9話につづく… |