最新設備の酒蔵 取材報告  (by えつこ)

新潟県新潟市  高野酒造

第 11 話

 ようやく通路に戻ってきました。ホッと一息ついてまわりを見回すと壁一面に麹室の機械をコントロールする制御板が並んでいます。
 これは床むろの温度調整をする機械です。
     
 現在の温度や湿度がデジタル表示されています。その下に設定、調整用のつまみやボタンが付いていました。
 そしてその隣は麹室の室内や製麹機などのコントロール板がありました。
    
 こちらは更に色々な表示やつまみが付いていて、なんだかよくわかりません。
 写真に写ってはいませんが麹の温度変化を記録したグラフの細長い紙も入っていました。
 その記録用紙を見れば何時にどれくらいの温度で、どのような曲線を描いて麹米の温度が変化したかが一目でわかります。
 さて、次の見学に移りましょう。次は「枯らし」が終わった麹米でお酒の元となる「酒母」造りの工程です。
 以前に新蔵が完成したときに東北方面からの見学者を受け入れたときの事です。この麹室も見学者を中に入れて見せたのですが、その中に同業の技術者が紛れ込んでいて、ちょっと目を離した隙に発酵途中の「酒母」の泡を携帯用の培養器ですくって盗まれた事があって、それ以来、通常はこの「酒母室」には誰も見学者は入れないことになったそうです。
 こちらで使っている自製S3酵母は元新潟県醸造試験場の場長だった廣井先生が開発した大変優秀な酵母で新潟県内で7つの酒蔵でしか使っていないという特殊な酵母なのです。ですから同業者にとって産業スパイをしてでも手に入れて確かめてみたい酵母なのです。

 そんなこととはつゆ知らず、でも私たちの身元は明らかです。そこで特別に中に入れてもらって見せてもらいました。
    
 扉を開けると良い香りが漂ってきます。
 「酒母」は文字通り酒の母と書くように、これから仕込むお酒を決定する最もベースとなるものです。
 この「酒母」の原料は蒸し米と麹と酵母と水です。発酵が進むと、この中は元気な酵母がいっぱい活動しているということになります。
    
 この「酒母」造りは、いかに元気な酵母を増やすかが大切なのです。
 メロンやリンゴ、バナナやパイナップルのような、とても良いニオイが鼻をくすぐります。
 タンクの中は酵母がまるで濃縮されているような状態になっているのです。
 それではお待ちかね。タンクの中を覗いて見ましょう。これらのタンクは容量が約650リットル。ドラム缶の約1.5倍。ホーロー製です。それほど高くはありませんから踏み台を1段上がれば縁から中をのぞける高さです。
     
 これが仕込み開始後4日目のタンクです。昨日まで泡は無かったそうですが、今日はもろみの温度を15度Cまで上げたため、柔らかな泡が盛り上がり始めた状態だということ。
 しばらくじっと見ていると、所々で泡がポコ、ポコと盛り上がって動きます。
 この頃はもろみの中で乳酸菌の働きで乳酸が生成されています。ですからすっぱいような香りがします。ウーン、まるでヨーグルトのような感じです。

    …第12話につづく…

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