初めての酒造り体験 取材報告  (by えつこ)

新潟県長岡市  吉乃川

第 15 話

 これは「飯台(はんだい)」といって、大吟醸などの高級酒を造るときの蒸し米の放冷に使うものだそうです。
    
 大吟醸などの高級酒の蒸し米は、他の酒のものに比べて硬めに蒸します。その理由としてはお米が簡単に溶けてしまって、短時間で糖化しないようにするためです。
 大吟醸の仕込は低温で長い時間をかけて仕込みますので、お米が溶けにくいようにするためなのです。
 ですから大吟醸の酒カスは、お米の粒が残っているでしょう。お米が溶けにくいと言うことは、雑味のないきれいなお酒になるのです。でも良いお米をたくさん使わなければならないので、どうしても高くなってしまいますね。
 また、大きなタンクでお酒を仕込むときと、小さなタンクで仕込むときでは同じやり方でも違いが出ます。
 大きいタンクの場合は仕込の量に比べて空気中の雑菌に影響される割合が少ないので、酸が少なく淡麗なお酒にしやすいとのこと。
 そのため、味や品質面から安定したお酒を造ることができるという事です。
 説明も終わり、「瓢亭」に戻って来ましたが、お昼までもう少し時間がありましたので、ビデオを見ることにしました。
 ビデオのタイトルは「水・米・人」という「吉乃川」の身上である吟醸酒造りのビデオです。
 まずタイトルにもある「水」について、水は天下甘露泉と命名された良質な地下水が豊富で、ここは東山丘陵地からの雪解け水と信濃川の伏流水が地下深くで交わる場所で、不純物や醸造に不適当な成分の少ない非常に優れた水だということ。
 続いて「米」について、米は新潟県南部の山あいの地方や近郊の農家で造られたお米で、その大部分が新潟県産酒造好適米の中でも最高の「五百万石」という種類のお米を使っているとのこと。
 そして、「人」とはもちろん蔵人のこと。有能な杜氏集団が長い間、受け継がれてきた歴史と伝統を守り続けていると言うこと。
 杜氏集団とは師弟制度とも言うことができ、杜氏を先頭に頭、麹屋、もと(酒母)屋、釜屋の技術者集団です。

 彼らは蔵にとって大切な財産ともいえる人達ですと紹介しています。
 続いて、お酒造りの説明です。
 精米した後のお米は洗米という工程に進みます。磨き抜かれたまるで石英のような真っ白なお米が、水に浸されることによりパールホワイトの色に変わっていきます。その時のお米をよく見ると色の変化でお米に水がしみ込んでいく様子がわかります。
 続いて吸水を経て蒸し米造りです。蒸気で蒸されたお米は飯台に乗せられて放冷します。そして、麹室に運ばれ、そこでお米を広げて、2メートルくらいの高さから篩(ふるい)に入れた麹菌を木の棒でたたいて、静かに少しずつ落とします。その時に助手が団扇(うちわ)でゆっくりと1回あおぐことによってうすく広く菌を散らします。
 これが吉乃川流の麹菌の種付け方法で、お米1粒に菌を3つ植え付けるつもりで、決して急がずおだやかに種付けをします。
 麹菌は約50時間かけてゆっくり増殖し、お米の内部にまで入り込んで「突き破精(はぜ)麹」となります。
 その間、麹屋と呼ばれる人達が温度と湿度を十分に注意しながら「盛」、「仲仕事」、「仕舞仕事」と作業を続け「出麹」となります。
 完成した麹は1晩「枯らし」という休みを与え、酒母づくりに使用されます。完成した酒母は「もと(酒母)おろし」という本格的な仕込みタンクに移されて初日は添仕込、2日目は踊りといってお休み、3日目は仲仕込、4日目が留仕込を行い、掛け米と水と麹を徐々に増やしていって約30日間でお酒が完成するのです。
 ビデオではそのもろみの完成直前に「もろみきき」という、しぼりのタイミングを決めるための味見の様子が紹介されています。
 そして、最後は搾りとなります。
 高級酒は今でも槽(ふね)を使って搾ります。もろみを酒袋に入れて槽の中に何段にも重ねて入れていくと、そのもろみ自体の重さで自然にお酒がしたたり出てきます。最初に出るお酒が「あらばしり」。少し煙のように濁っています。続いて「中取り」。きれいに澄んだお酒です。そして、もろみに圧力をかけて搾ったお酒が「責め」と呼ばれます。
    …第16話につづく…

第14話にもどる        第16話にすすむ