初めての酒蔵見学 取材報告2    【by Etuko】

栃尾市 越銘醸株式会社

第 14 話

 さて私たちはお酒造りで最も華やかな所にやってきました。華やかっていっても決してネオンがピカピカしているということではありません。
 蔵人にとって丹精込めて育て上げたお酒が出来上がるとてもうれしい場面が「上槽(じょうそう)」=搾りとなるわけです。
 こちらでは大吟醸酒などの高級酒の一部は昔ながらの圧力をかけないでしぼる方法の「袋づり無圧搾り」という手法でお酒を搾ります。その様子からお伝えしましょう。
 現場に近づいて行くと小さなタンクがたくさん置いてありました。そこで作業が行われているようです。
 5〜6人の蔵人がかたまって仕事をしています。お邪魔にならないようにそっと近づいてみました。さすがに皆さん真剣です。こちらまでその緊張感が伝わってくるようです。
     
 それでは「袋づり無圧搾り」の様子をご説明しましょう。 
 まず、先程ご紹介しました大吟醸酒のタンクの残りの1本がそこにあります。中には約1ヶ月もの長い時間をかけ、大切に育て上げられた大吟醸酒の真っ白なもろみが入っていて、ようやく発酵が終わり、今まさにその大吟醸酒の搾りを行うところです。
 まず、タンクの中のもろみを櫂棒でやさしく混ぜてもろみを均一にします。そうしないとどうしてももろみの上下により酒質が変わります。上の方が香気成分の多い軽目のお酒。そして下の方が味わいのあるどっしりしたお酒となってしまいます。つまりそのままではタンクの上からヒシャクでもろみをすくって搾るときに最初の方とと最後の方の酒質のバランスが変わってしまいます。また、袋ごとのもろみの残存率も変わってしまって、均一に搾ることが出来ません。ですから最初にもろみを混ぜて均一にしてから搾りを開始します。
 まず大吟醸のもろみが入ったタンクのすぐ脇に空のタンクを用意します。そして、空のタンクの上で2人がかりで縦に細長い形をした酒袋の口を広げて持ちます。そこにもろみを大きなヒシャクですくって、こぼさないように静かに慎重に注ぎ入れます。

 大体、もろみを3〜4回入れると酒袋の8分目くらいになりますので口をひもで縛り、次の人に渡します。それをまた2人がかりでタンクの開口部に橋のように渡した棒にひもで縛り付けてぶら下げます。
     
 慎重に、慎重に。そして手早く続けます。1本の棒で6〜7袋をぶら下げます。続いて2本目の棒にも同様に吊していきます。
     
 最終的にほぼ隙間なく酒袋がぶら下がるように6〜7本の棒に約40個の酒袋が皆並んでぶら下がっています。想像していたよりたくさん吊すのですね。
    
 酒袋は1つで9リットルのもろみが入ります。ですからここで約360リットルのもろみが吊されたことになります。
 それぞれの袋からは静かにお酒だけが袋の外側にしみ出してきます。決して人の手を加えることなく、もろみから自然に流れ出てくるお酒だけが滴り落ちていきます。
 白濁していたもろみが透きとおった透明なお酒に変わる瞬間です。その滴り落ちるお酒の一滴一滴がポタンポタンと静かな蔵の中に響き渡ります。今までの苦労を忘れさせてくれる至福の瞬間ですね。
 このようにゆっくりと時間をかける昔ながらの製法で、圧力をかけないで搾るお酒は一層、まろやかになるような気がします。作業が終わったときの蔵人達の晴れやかな表情がとても印象的でした。
 作業が終了するとそのタンクの上にカバーを掛けて丸1日そのままにして自然に流れ出てくるのを待つことになります。
    …第15話につづく…

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