最新設備の酒蔵 取材報告  (by えつこ)

新潟県新潟市  高野酒造

第 3 話

 通路に出ると小さな窓だけの部屋があります。「無菌室」と書いてあります。
      
 窓から中を覗くとフラスコやピーカーなど化学実験で使ったことがあるような実験器具が置いてあります。それらを横目で見ながら通り過ぎるとその隣に「研究室」がありました。
    
 中に入るようです。大きな酒蔵ですと研究室も立派で設備も整っていますが、そういうところは部外者入室禁止のため見学者は中に入ることは出来ません。それに比べて小さな酒蔵は自社で研究に経費をかけることは出来ませんから立派な研究室はありません。
 ちょうど中規模の酒蔵の高野酒造では適当に機材もあり、また、新しい蔵として設備も整っているので見せてもらうにはちょうど良いのかも知れません。ご迷惑をおかけしないようにと思いながら中に入れさせてもらいました。
 内部は真ん中に机があり、それを囲むように壁に添って色々な科学器具が置いてあるように見えます。
    
 最初は入口左側の器具から説明されましたが初めて見る機械と緊張感から何を説明してもらっているのかうまく飲み込めません。そこでこの部分は主人に代わって説明してもらいます。一応主人は理科系で化学系のお勉強をしていたはずですから私よりはうまくお伝えできると思います。
 それでは変わりました。只今ご紹介に預かりましたその主人です。
 そうなんです。一応大学で化学系のお勉強を致しまして、こういうところは任せてください。ちなみに化学は英語でケミストリーといいます。

 なーんちゃって。ふざけていないでちゃんと進めろって?失礼しました。
 さて、この写真に写っているのは実験器具です。この説明から入りました。
    
 この器具はお酒のアルコール度数を検査したり、お酒の中の酸を検査するときに使う器具ですね。
 まずこちらにあるのが液体の中に混じっている成分を蒸留して、沸点の違いから溶液を精製するリーディッヒ・コンデンサという器具です。
     
 原理はいたって簡単。液体を加熱して蒸気が出ますよね。その蒸気を冷たい流水が流れている管の中をぐるぐると細く螺旋状に通っている管に通します。
 螺旋状になっているのは長い管の方が中の蒸気が冷却されやすいからです。この冷却管を蒸気が通っている間にまわりの冷却水で温度が下げられ、蒸気の温度が下げられて液体になるのです。
 つまり、この器具は加熱温度に注意して使えば液体の中に含まれているアルコールや香気成分と水分だけを抽出(分溜)することができます。
 なぜこんな器具を使わなければならないかというとお酒の中には水やアルコールの他に糖分、酸、アミノ酸など色々な成分が入っています。
 例えばプールと海とでは塩分の差で人の体の浮き方が変わります。同様にお酒の中の糖分やその他の成分のおかげで正確なアルコール濃度が計測できないのです。それで一度精製してから測るようにするのです。
 それとも別の言い方として、蒸留器と言った方が分かり易いでしょうか?
 邪道ですが、この器具で実験室規模では醸造酒を蒸留酒にすることが出来ます。
 例えば日本酒を本格焼酎に、また、ワインをブランデーに、穀物から作った醸造酒をウイスキーにというふうに、少し乱暴かも知れませんが例えとしては可能です。
    …第4話につづく…

第2話にもどる        第4話にすすむ